私たちの取り組み

AIR2018 船山 哲郎

ひとつながりの長椅子/共生の跡

2018年3月をもって閉校を迎えた馬頭西小学校のグラウンドに全長18mの丸太のベンチを制作した。里山から木を切り出し、座面の仕上げのやすりがけは、馬頭西小学校最後の在校生と共に行った。閉校し、子供達が足を運ばなくなったとしても、この場所は確かに多くの子供達が共に学び、過ごした場所である。この村を見守ってきた里山の木を使い、ひとつながりのベンチを制作することで、一つの小さな跡をこの場所に刻むこととする。18mという寸法は、小学校最後の在校生約40人が横一列に並んで座れる長さである。


 
船山 哲郎 / Funayama Tetsurou
岩手県出身
札幌市立大学で建築・空間デザインを学び、同大学大学院デザイン研究科で修士号(デザイン)を取得。
風情や情緒など、日本人の美的感覚に興味を持ち、風景と人間の知覚に着目した作品を多く制作。木材を用いて実際に人が体験できる空間を制作することを主としながら、記録映像の撮影や編集も自ら行っている。また、制作活動と並行してインスタレーション作品の制作手法に関する研究を行い、日本環境芸術学会に複数の研究報告を発表している。
秋田公立美術大学美術学部 助手。
 
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レジデンスを振り返って
 
2018年3月27日から31日までの短いレジデンス期間だった。
 

3月27日
早朝に秋田の自宅を車で出発し、一路、小砂へと向かった。
秋田・岩手・宮城・福島を通過する全行程450km超の道のりを7時間かけて移動した。小砂到着後は、KEAT事務局のある美玉の湯と、当時の小砂Village協議会会長であった藤田清さんに挨拶を済ませ、滞在場所となる旧馬頭北保育園(写真:res001)へと向かった。元保育園ということで、トイレも保育園サイズで可愛らしかったが、夜になると真っ暗で少し怖かった。清さんによると屋根裏にハクビシンが巣を作っているらしく、夜になると天井からそれらしき足音が聞こえて来た。
 


 

3月28日
早朝に藤田清さんと笹沼享一さんと共に、清さんの家の裏山に素材となる杉の木を見に行った(写真:res002)。清さんがすでに長椅子の素材になりそうな木を選別していてくれたらしく、全長22・3mはあろうかという真っ直ぐな杉の木にすでに切り倒す時に使うワイヤーがかけられていた。

早速、木の切り倒し作業に入った。清さんがチェーンソーで切れ目を入れ、僕と享一さんがワイヤーを引っ張ることで、木を思い通りの方向に倒すことができた。一定の角度まで傾けてしまえば、あとは木の自重で倒れてしまうので、立派な巨木を3分足らずで切り倒すことができた(写真:res003)。
不要な枝や、先端の細くて使えない部分を切り落とした丸太を、バックホーで山から引き摺り下ろし、馬頭西小学校まで運ぶために、林内用の木材運搬機に丸太を積載した。当然ながら丸太の方が運搬機よりもはるかに長いため、うまく重心を見極めながら運搬機の上に載せ、ロープで固定した。

無事に積み込みが終わり、小学校へ向けて運搬を開始した。享一さんと僕がそれぞれ前と後ろに付いて歩き、安全確認をしながらゆっくりと農道を進んだ(写真:res004)。途中から大金新一郎さんとも合流し、4人で馬頭西小学校へと向かった。途中どうしても公道を進まなければならない区間があったが、車通りもほとんどなかったため、特に問題もなく小学校に到着した。

到着後、まずはフォークリフトを使って運搬機から丸太を下ろした。その後、4人で丸太の樹皮を剥いだ。3月の終わりはちょうど樹木が地面から水を吸い上げ始めた時期だったため、樹皮の癒着が少なく、20分ほどで全ての樹皮を取り除くことができた(写真:res005)。

樹皮を剥いた後で、丸太を4箇所切り欠き、フォークリフトで持ち上げて石の上に据え付けた。土台に使った石は地元で採れる小砂石と呼ばれる石で、新一郎さんから譲ってもらったものだ。丸太をしっかりと石の上に固定できたところで、夕方を迎えたため、この日の作業はここまでにして解散した(写真:res006)。
 


 

3月29日
この日は座面の切り出しに入った。水糸を張って墨付けをし、その線に沿ってチェーンソーで座面を切り出して行った(写真:res007)。木目方向に長時間刃を入れていくというのは、チェーンソー本来の使い方ではないため、負荷に耐え切れずチェーンソーの回転が止まってしまう場面が何度かあったが、なんとか座面を切り出すことができた。僕と清さんで座面を切り出している間に、新一郎さんは土台の小砂石の面取りをしてくれていた。石材屋に勤めていた経験があるらしく、慣れた手つきで石の角を整えてくれた(写真:res008)。

座面を切り出した後はカンナがけをした。表面を滑らかにするという目的もあるが、チェーンソーだけでは水平な面を切り出すことができないため、カンナで座面の水平を整えていった。僕と新一郎さんがカンナがけを行っている間に、清さんは怪我の原因になりそうな節を削ってくれていた。享一さんもグラインダーで棘が出ている部分などを滑らかにしてくれていた。2時間ほどかけて、長椅子の表面を整え、ひとまず完成とした(写真:res009)。
 


 

3月30日
この日は予備日としていたが、28,29日で作業が終了してしまったため、翌日のワークショップに使う道具の調達や、長椅子に塗る防腐剤を購入し、準備を整えた。
 

3月31日
ワークショップ当日を迎えた。この日は馬頭西小学校最後の在校生全員で校舎の清掃を行う日ということもあり、ワークショップには在校生全員が参加してくれた。作品のコンセプトについて説明をした後で、一人に一つずつヤスリを渡し、全員で座面にヤスリがけをしてもらった(写真:res010,011)。表面はカンナのみの仕上げだったので、少しヤスリをかけるだけでも手触りが滑らかになり、子供達も楽しそうにヤスリがけをしてくれた。ヤスリがけは30分ほどで終了し、その後全員で桜の苗木を植樹した。最後にベンチに横一列で腰掛けた子供達と、ワークショップを見守っていてくれた親御さんや地域の方々と一緒に記念撮影をして、ワークショップを終了した(写真:res012)。
ワークショップ後、仕上げのヤスリをかけた後で防腐剤を塗布し「ひとつながりの長椅子/共生の跡」の完成をみた(写真:res013)。
 


 

まとめと感想
今回小砂で制作した作品は、自分一人ではとても制作できる作品ではありませんでした。作品の制作を最初から最後まで手伝っていただいた藤田清さん、笹沼享一さん、大金新一郎さんには大変感謝しております。また、一生懸命ヤスリをかけてくれた旧馬頭西小学校の子供達、作品設置やワークショップの開催を許可していただいた先生方、ワークショップを見守っていてくれた親御さんや地域の皆様、多くの協力があって初めて完成した作品です。
僕の故郷は岩手県の玉山村という小さな村で、初めて小砂に訪れた時、風景が故郷と重なって見えました。小砂で育った子供達がこの場所を訪れた時に少しでもこの作品を一緒に制作した時のことを覚えていてくれたらいいなと思います。清さんは、毎年防腐剤を塗ればこの作品は20年は保つと言っていました。子供達が大人になった時に、このベンチに腰掛けて自分たちで植えた桜の木に咲く花を眺めることができたら、それは素敵なことだなと思います。